ピロリ菌の感染経路

 らせん状の細菌であるヘリコバクター・ビロリ(ピロリ菌)が、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因菌であることは、広く知られるようになりました。特に、ピロリ菌陽性の潰瘍の患者さんに対して除菌治療を行うと、ほとんど潰瘍の再発が見られないことより、その重要性がよく分かります。
 生直後の赤ちゃんは、胎盤内感染がないことよりピロリ菌には感染していません。1992年に発表された論文(Asakaら)によると、血清抗体検査による感染率は年齢と共に上昇し、40歳以上の日本人の70%以上の方が抗体陽性です。これは、1950年より前に生まれた日本人に感染者が多いことを示しており、その感染率は発展途上国と同様です。1950年、昭和25年といえば、未だ戦後の衛生状態が悪い時代で、発展途上国の高いピロリ菌感染率とを考え合わせると、ピロリ菌感染と環境要因としての衛生状態の重要性が考えられます。特に、最近の研究成績によると全般的に感染率は低下しており、衛生状態が改善された後に生まれた若年層の低い感染率はそれを証明しています。
 では、ピロリ菌はどのようにして感染するのでしょうか?現時点では明確な結論は得られていませんが、口−口感染、糞−口感染と考えられています。
 感染の機会はどこにあるのでしょうか?この解答は、小児科の先生方の研究結果が参考になります。但し、児童は免疫力が充分に発達しておらず、特に抗体を産出するB細胞が未成熟なため、感染していても抗体検査では陰性となることもあります。したがって、便の中のピロリ菌の検査が信頼できる検査と言えます。和歌山県立医科大学の研究グループの成績では、両親ともピロリ菌抗体陽性の小児では50%、片親のみ陽性の小児の25%が便中にピロリ菌抗原を排出しており、両親とも陰性であった小児は9名全員が陰性でした。したがって、家庭内が感染場所であると考えられます。
 家庭内と言えども、夫婦間での感染はまれと考えられています。共にピロリ菌保菌者の夫婦のピロリ菌を調べてみましたが、3組とも異なる菌株でしたので、それぞれの家庭で感染し、その後結婚して新しい家庭を持ったと考えています(未発表データ)。
 未だ結論は得られていませんが、現時点における感染経路は以下の如く考えられています。
 1)通常の生活では、簡単には感染しない
 2)感染防御には衛生状態の改善が有効である
 3)感染様式は、口−口感染、糞−口感染である
 4)家庭内感染が考えられるが、夫婦間感染はまれである
 5)親子感染が多く、幼児期に感染している可能性が高い
 6)共同生活時間の長い保育園も感染場所と考えられますが、保菌者がすべて潰瘍になることはないので、差別の原因とならないようにプライバシーの保護を充分に考慮しましょう。
              乳幼児のお母さん方へのご注意
 現在、最も有力な感染ルートの一つは、母親→赤ちゃんへの口移しで食べ物を与えることです。特に離乳食を与える時に、熱い食べ物を一旦母親が口の中に入れて冷ました状態で赤ちゃんに与えますが、同時にピロリ菌を感染させている可能性があります。1回のみでは感染しないと思われますが、毎日毎日繰り返すことにより感染が成立する可能性がありますので、注意してください。

        参 考 文 献
1)小池通夫、奥田真珠美:日本医師会雑誌、126:M-34、2001

 
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「ノロウイルス」って何だ −冬の嘔吐・下痢症について− 

 1)冬に嘔吐・下痢を来す疾患
  風邪の一つとしての「ロタウイルス感染症」
    主に小児の風邪として流行しますが、成人もウイルス量が多ければ罹患します
  食中毒としての「ノロウイルス感染症」
    主に「なまカキ」を食した後に発症します。かきのシーズンですから、主に冬。
    食中毒としては毎年3位に入るほど多く、患者数は毎年一番多く発症しています。
 
2)下痢をきたす風邪
    風邪症状を来すウイルスは約200以上あり、その半数以上が消化器症状を来します。
    ロタウイルスは、抗体を獲得していない小児に多く発症します。以前は「小児嘔吐
    下痢症」と呼ばれていましたが、ウイルスが同定され、車軸様の形をしているので
    ロタウイルスと呼ばれます。
 
3)ノロウイルスについて
    ウイルスが小さく(インフルエンザウイルスの1/10)球形であることより、以前は
    「小型球形ウイルス」と呼ばれていた食中毒を来すウイルスです。1968年、米国
    オハイオ州ノーウォークの児童に流行し、その後ウイルスが同定され、
    ノーウォークウイルスと呼ばれていました。日本でも札幌で集団発生した症例
    からウイルスが検出され、サッポロウイルスと呼ばれていました。
    2002年国際ウイルス学会でそれぞれノロウイルス、サポウイルスと呼称すること
    になりました。即ち、小型球形ウイルスの中で、ノーウォークウイルスと呼称
    されていたウイルスをノロウイルスと呼び変えています。
 
4)発症頻度
    平成14年の食中毒発生状況では、サルモネラ、カンピロバクターについで第3位
    の発生件数で患者数は約8000人で第1位です。しかし、報告されていない症例も
    多く、実際には10〜100倍の患者さんが居られることが予想され最もありふれた
    食中毒を起こすウイルスです。
    福岡でも、2年前に小学校、中学校の修学旅行で出された長崎の中華弁当が原因
    の集団食中毒が報じられたことがありました。
 
5)原因食品
    カキなどの2枚貝がウイルスの中間宿主となりますが、多くの場合「なまカキ」
    が原因食品となっています。
 
6)潜伏期・症状
    原因食品を摂取後、1〜2日で発症します。
    症状は軽症であることが多く、自覚症状がなく軽い風邪程度のこともあります。
    嘔吐、腹痛、下痢、発熱で、下痢が著しい時には脱水状態となります。
 
7)感染経路
    1)経口感染で食品を介して感染します。
    2)まな板、包丁などを不潔にしていると、調理器具を介して感染することも
      あります。消毒には、塩素系の薬剤と熱湯が有効です。
    3)患者さんの吐物や下痢便、オムツなどを介してヒト⇒ヒト感染も起こります。
      また、症状が消失しても、1週間、長い時は1ヵ月後もウイルスを排出して
      いる場合もあり、要注意です。感染しても軽い風邪様症状で終わることもあり、
      全く無症状の場合もありますが、それでもウイルスを排出します。
      オムツなどが乾燥しても、ウイルスが浮遊して感染源となる場合もあります。
 
8)治療法
    抗ウイルス剤はなく、予防するワクチンもまだできていません。
    治療法は対症療法で、特に脱水の補正が重要
です
 
9)予防法
    カキを食べる時は注意しましょう。加熱用はナマでは絶対に食べないこと。
    スーパーで売っている加熱用カキの3割〜4割はノロウイルスに汚染されています。
    まな板などの調理器具は清潔にしましょう。熱と塩素系薬剤でノロウイルスを
    退治できます。85℃、1分の加熱がウイルスに有効です。
    手洗いの励行が簡単ですが、最も大切です。患者さんの汚物や吐物を処理した後は、
    丁寧に。症状は比較的軽症で終わることが多いウイルスですが、感染力は強力です。
 
10)カキとノロウイルスについて
    カキは1分間に数10Lの海水を吸引してろ過し、栄養分を濃縮して取り込みます。
    同時に細菌やウイルスも飲み込んでいます。現在は出荷前に減菌海水にて充分に
    洗浄していますが、細菌は洗い流せても、残念ながらウイルスの全ては洗い流せ
    ません。中腸腺と呼ばれる部分に、濃縮されて残ります。少量の摂取であれば
    症状を起こさずに終わりますので、生で食べる時は「3個まで」にした方が
    安全です。
    また、ノロウイルスは上流の人口が多く汚れた河川が栄養分の多い好条件となり、
    流れ込む海域の汽水に多く生息しています。



                    文責:あやすぎビルクリニック
                        院長 
岡 部 信 郎

   
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